大阪地方裁判所 昭和60年(わ)5139号 判決 1986年1月17日
主文
被告人を懲役三年に処する。
未決勾留日数中四五日を右刑に算入する。
押収してあるドライバー一本を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 (一) 昭和五一年二月四日神戸地方裁判所姫路支部において窃盗、詐欺罪により懲役三年に処せられ(同月一九日判決確定)、昭和五四年二月七日右刑の執行を受け終わり、(二) 昭和五三年八月一一日神戸地方裁判所尼崎支部において窃盗、同未遂、住居侵入罪により懲役二年に処せられ(同月一九日判決確定)、昭和五六年二月七日右刑の執行を受け終わり、(三) その後犯した窃盗、同未遂、住居侵入、同未遂罪により昭和五七年八月一〇日京都簡易裁判所において懲役二年六月に処せられ(同月二五日判決確定)、昭和五九年九月一二日右刑の執行を受け終わったものであるが、更に常習として、別紙窃盗犯罪一覧表(以下、別表という。)記載のとおり、昭和六〇年四月四日から同年一〇月七日までの間、五回にわたり、大阪府摂津市千里丘東三丁目一一番二四号近藤文化河野通朋方ほか四か所において、同人ほか四名所有の現金合計約二七万九、〇〇〇円及びレコード盤など約六六点(時価合計約三五万四、八〇〇円相当)を窃取し
第二 正当な理由がないのに(他人の住居等に侵入のうえ財物を窃取する目的をもって)、昭和六〇年一一月一日午後五時ころ、大阪府豊中市千成町三丁目六番先路上において、他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具であるドライバー壱本を布袋に隠して携帯し
たものである。
(証拠の標目)《省略》
(累犯加重の原因となる前科)
前掲罪となるべき事実中に記載の(二)と(三)の前科関係のとおりであって、右は、前記前科調書のほか京都簡易裁判所の被告人に対する判決書謄本によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一、二の各所為は包括して盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条、二条(刑法二三五条)に該当するところ、被告人には前示累犯加重の原因となる前科があるので刑法五九条、五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で三犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、刑法二一条により未決勾留日数中四五日を右刑に算入し、押収してある主文掲記の物件は判示犯罪行為(但し、判示第二の行為)を組成した物で、被告人以外の者の所有に属しないから刑法一九条一項一号、二項本文によりこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。
(被告人に対し懲役刑のみを科した理由)
検察官は、本件は盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条(二条)の常習累犯窃盗罪(判示第一の罪)と軽犯罪法一条三号の侵入具携帯罪(判示第二の罪)の併合罪であるとし、被告人に対し懲役刑と拘留刑を科すべき旨(求刑・懲役四年及び拘留二〇日)主張する。しかしながら、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条の常習累犯窃盗罪の立法趣旨に照らし、犯人が一〇年以内に三回以上、窃盗罪等同種前科の刑執行を受け終っているにも拘らず、更に常習として、数個の窃盗(又は同未遂)罪と窃盗目的の住居侵入罪を犯した場合、この住居侵入罪は右数個の窃盗罪とともに包括して一個の常習累犯窃盗罪のみを構成するものと解する(最高裁判所第三小法廷昭和五五年一二月二三日判決・刑集三四巻七号七六七頁以下参照)のが相当というべく、さらに、軽犯罪法一条三号の侵入具携帯罪の立法趣旨は、当該侵入具携帯の行為が住居侵入・窃盗罪等のより重い犯罪に至る危険がありとして、その危険が未だ潜在的状態である間に阻止することを専ら目的とするものであって、右侵入具携帯罪は住居侵入罪が成立するときはこれに吸収されるべき性質のものと考えられ、本件においては、被告人が判示第一の各窃盗行為とともに、住居侵入・窃盗の目的で判示第二の侵入具携帯行為をしたものであるところ、以上の点を考合すれば、判示第二の侵入具携帯の行為は判示第一の各窃盗行為とともに包括して盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条(二条)該当の常習累犯窃盗一罪を構成し、別罪として軽犯罪法一条三号の侵入具携帯罪を構成しないものと解するのが筋合である(同旨、大阪地方裁判所第一五刑事部二係昭和五九年一二月七日判決・判例タイムズ五五三号二五七頁以下参照)。従って、検察官の右主張は採用できず、被告人に対しては懲役刑のみを科することとしたものである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口彰)
<以下省略>